2007年08月07日

[読了] うるわしき日々


八十を過ぎた老作家は、作者自身を思わせて、五十過ぎの重度アルコール中毒の息子の世話に奮闘する。再婚の妻は血のつながらぬ息子の看病に疲れて、健忘症になってしまう。作者は、転院のため新しい病院を探し歩く己れの日常を、時にユーモラスなまでの開かれた心で読者に逐一説明をする。複雑な現代の家族と老いのテーマを、私小説を越えた自在の面白さで描く。『抱擁家族』の世界の三十年後の姿。(裏表紙)
新聞連載小説としてはおそらく世界最高齢であろうか。その畏敬を抜きにしても、ただただすごい小説かもしれない。僕の貧相な語彙を晒してもなお、すごいかもしれないといった一語でしか語れない。飄々とした小島信夫独特の語り口で老夫婦の哀切が丹念に綴られていくのだが、こちらが油断すると、85歳の老作家の生得的なエネルギーに一瞬で飲み込まれてしまう。絡め取られてしまう。「三輪俊介は小島信夫にそっくりであるが、何といっても小島信夫そのものではない」といった小島節も健在で、メタ・フィクションなんて言葉さえ陳腐に空々しく響いてくるほど、新鮮な驚きといきいきとした魅力をたたえた傑作である。読売文学賞受賞。
posted by ノジマコブオ at 00:00| 読了