2007年05月21日

[読了] 殉教・微笑


キリシタンの女に想いを寄せる賤しい番所の捕方が、狂気めいた一途なその女の俵詰め殉教を物語る「殉教」。小児麻痺児を持つ父親の屈折した心情を伝える「微笑」。他に「アメリカン・スクール」(芥川賞)「小銃」「吃音学院」「星」「憂い顔の騎士たち」「城壁」「愛の完結」収録。寓意性と微妙なユーモアの醸す小島信夫の初期作品九篇。 (裏表紙)
初期の代表的な短編を集めた短編集。収録作は以下のとおり。

:: 小銃(昭和27年12月「新潮」) ※昭和27年下半期芥川賞候補
:: 吃音学院(昭和28年8月「文学界」) ※昭和28年下半期芥川賞候補
:: 星(昭和29年4月「文学界」)
:: 殉教(昭和29年6月「新潮」) ※昭和29年上半期芥川賞候補
:: 微笑(昭和29年7月「世潮」)
:: アメリカン・スクール(昭和29年9月「文学界」) ※昭和29年下半期芥川賞受賞
:: 憂い顔の騎士たち(昭和30年4月「知性」)
:: 城壁(昭和33年9月「美術手帖」)
:: 愛の完結(昭和31年12月「文学界」)

初期の代表作がずらり。どれも一度読み通しただけではなかなか評価することが難しい。注目すべきは昭和29年の精力的な執筆活動であろう。この短編集に収められたものだけでも、「星」「殉教」「微笑」、そして「アメリカン・スクール」。これほど濃密な作品を毎月のように発表していたことに驚きを禁じ得ない。観念への忠誠から生まれる悲劇を流麗な筆致で描いた「殉教」が、個人的にはベスト。「憂い顔の騎士たち」も良い。この物語に登場する若者たちは、悩むことを何より美徳であると考えている。しかし悩みを打ち消そうにも、うまく行くわけがない。悩みに実体がないのだから。悩むという行為そのものが目的化している有様は、もはや悲哀を通り越して滑稽ですらある。街の城壁が忽然と消えてしまうという「城壁」のSF的な世界観は、村上春樹との近似を感じる。村上春樹は小島信夫の初期短編を好んで読んでいたという話を、いつかどこかで読んだような気がする。また、彼は「若い読者のための短編小説案内」という著作においても、小島信夫の短編「馬」を取り上げている。「読み解くにはかなり厄介な作品で、一筋縄ではいかない」とことわりながらも、様々な角度から小島信夫的な小説作法の考察と分析を試みている。
posted by ノジマコブオ at 00:00| 読了