2007年04月12日

[読了] 各務原・名古屋・国立

kakamigahara.jpg [Amazon]
淡々と語られる老夫婦の哀切な日常
「生きてゆくこと」の深淵を描き出す傑作連作小説集 (帯)
「老小説家・小島信夫」に縁のある三つの土地、各務原、名古屋、国立で語り始められる連作小説集。記憶障害をもつ妻「アイコさん」との生活を中心に紡がれてゆく日常と回想。淡々とした中に上質なペーソスとユーモアに包まれる傑作作品群。 (裏表紙)
巨編「別れる理由」以降、小島信夫の小説はメタ・フィクション的な色合いがより濃くなったのだという。この連作小説「各務原・名古屋・国立」にも、実在する人物が多数登場する。そして、講演なのかエッセイなのか小説なのか、読者にははっきりとわからない。それらを相互嵌入させることで、小島はストーリー全体を静かに振動させているようだ。

何のきっかけもなく本文途中で一人称から三人称へ、はたまた三人称から一人称へとめまぐるしくすり替わる作者の視点。さらに動作の主体が一点に留まらないので、読者の意識は常にブレ続け、混乱し、酩酊する。「小説」とはここまで大胆にその枠を拡げられるものだったのか。

「名古屋」の最後では、読者と老作家(すなわち小島信夫本人である)によって、小説「女流」についての質疑が展開される。先日読み終えたばかりの作品ということもあり、非常に興味深い箇所であった。登場人物にそれぞれモデルが実在したことを知る。女主人公の菅野満子=由起しげ子、不倫相手の甲田良一=小島勇(小島信夫の兄)、そして物語の語り手である甲田の弟・謙二=小島信夫本人なのだという。

小島邸とその周辺の土地を丹念に描く「国立」の筆致は、枯淡の味わいなどという世界とはまったく無縁の瑞々しさであり、特有のゴツゴツした文体もやがて心地よい律動に思えてくるから不思議だ。執筆当時の作者はすでに85歳を超えている。

坂の上に建つ自宅については「すべてにわたって無責任」と語る一方、「やるべきことは、すべてやっている!」と心の中で叫ぶ。その小島の叫びは「抱擁家族」の三輪俊介の叫びと強く結びつき、共鳴している。
posted by ノジマコブオ at 00:00| 読了